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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
つまり弔問客にとむらい菓子とか、菓子の代金だけの切手を配るのである。信心ぶかい金持の葬式だと火葬場で貧乏な人たちに投げ銭もしたものだそうで、沿道にはその施与を求める貧児や老人たちが、列をなすこともあったということだ。
せい子は葬式の弔問客の中にまぎれこんで、菓子の箱とか、切手などを貰い、それらをすぐに菓子屋へ持っていって金に替える。杉板の箱にはいった菓子でも、その代価に相当する切手でも、およそ二割引きくらいで菓子屋は買い戻すから、一日に五回も葬式があれば、日雇いなどより割高な稼ぎになった。――もちろん元手なしにはできない、弔問客として黒の紋服も必要だし、髪かたちもきちんとしていなければならなかった。せい子は木綿ではあるが黒の紋服と帯があるし、髪も自分で毎日きれいに手入れをしていた。
この黒紋服と髪かたちを崩さないことで、せい子は「マダム」などと呼ばれるようになったのであるが、そればかりでなく、彼女は言葉つきも態度も山の手ふうであって、「ざあます」をつかい、「おほほ笑い」ができた。
子供のじんは奔放な無政府主義の信奉者であった。彼は母を嫌い学校を嫌い、腕力の強い相手は避けるが、弱い者や女の子を見ると暴力をふるい、犬猫はみかけしだい虐待した。