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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
殆んど自分の家へはよりつかず、よその物置とか縁の下などで寝、空腹になれば他人の家の勝手をあさった。――着ているものはぼろぼろ、顔も手足も垢と泥まみれで、側へ寄るとどんなに低級な乞食よりもひどい匂いがした。ごくたまに、せい子が彼を捉まえることがある。するとせい子は家へつれ戻して、夏と冬との差別なく裸にして、水とシャボンで彼を洗い、頭の毛を刈り、爪を切り、着物を着せ替えてやる。
このあいだじゅう、せい子はやさしい「ざあます」口調でじんをたしなめ、じんも温和しくはいとあやまる。めざめて帰った放蕩息子と、あたたかく迎える親との図を思わせるような、美しい感動的な一瞬である。だが、これらの改装作業が終るとたんに、鞭打ち教的な行事が始まるのだ。
それは「どうしてあなたはそうお悪いんですの」という、やわらかな叱責で幕があく。
どうしてなの、外で寝るような子は人間ではないことよ。どうしてそうなんですの。ご近所の方たちがなんと仰しゃってるか自分でもよくご存じでしょ。なぜ悪いことばかりなさいますの。ねえ、どうしてお直しなさらないの。
その声はやわらかにやさしく、蜜をたっぷり掛けたプディングのように甘ったるいひびきをもっているが、言葉と言葉のあいまに、ぴしり、ぴしりと凄いような音の伴奏が聞える。