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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

あの顔のやまいだな、足のほうはなんでもないが、顔のあのやまいだけはどうにも馴染めないよ。

島さんには一種の持病がある。顔面神経痙攣とでもいうのだろうか、時をおいて顔にデリケイトな痙攣がおこり、同時に、喉の奥のほうからなにかがこみあげてき、喉を這い登って「けけけけふん」というふうな音になって鼻へぬけるのであった。

向いあって見ていると、まず片方の眉がつりあがり、眼がすばやいまばたきをする。これが痙攣のおこる前触れなのだが、初めはたいていの人がウィンクされたように感じて狼狽するようだ。

私はへどもどしちゃってね、と古物商の小田さんは云った。――あの眼をぱちぱちっとやられたときには、今夜おめえの女房を貸せよ、とでもいう謎じゃねえかと思っちゃってさ。

このウィンクに続いて、左右の眉と眼と口とが、それぞれ勝手な痙攣を始め、鼻までがうごめきだし、そうして喉からこみあげてきたものが、「けけけけふん」と鼻へぬけるのである。――これらデリケイトな発作は、まったく不定期におこった。二時間も音沙汰なしでいたり、十分おきに反復したりする。酔ったときにはしばしば安全であるが、そう気がつくなり激烈なやつが襲ってくる、というぐあいであった。