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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「そういうことは事前に云ってくれなくては困るじゃないか」
「今日も資金の調達ができると思ったもんですから」
「やむを得ん」先生はちょっと首をひねり、顎髯をいじってから云った、「――じゃあきみ済まんが、たんば老人のところへいって来てくれ、寒藤清郷が米を拝借したいと云えばわかる、明日はぼくが調達にでかけるが、きみ、こういうことも人格構成の重要な経験だ、おろそかに思ってはいかんぞ」
八田青年はビスマルクのやつが出て来ないうちに立ちあがった。
先生にはべつに資金源があるらしく、翌日は自分で外出し、日が昏れてから泥酔して帰った。
「これは泥酔なんてもんじゃないぞ、きみ」と先生は云った、「泥酔なんていう俗なもんじゃない、これはそのあれだ、その、なんだ」
「裏から、裏から」と八田青年が声をころして云った。
「きみはなにをねぼけてるんだ」と先生はひょろひょろしながら塾生をにらんだ、「失敬じゃないか裏からとは、なんだ」
「いや、猫がですね」と八田青年は右手の甲で口をぬぐいながら云った、「猫のやつがいま勝手にいたもんですから、晩めしの支度をしますか」
「どうしてまた猫に晩めしを食わせるんだ」