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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「だからその本人を返してくれっていってるんだよ、先生」

「返してくれって、ぼくがおはちさんをどうかしてでもいるっていうのかね」

「いうのかねったって」治助はじれったそうに頭の毛を掻きむしった、「おれはね、こんにち唯今ここへ来たわけじゃねえんだよ、おはちの、いや、おはつのやつのようすがおかしいと気がついたのは二た月もめえのことで、おれとしちゃあじっくり思案した、おれは眠れるかな、と幾十たびも考えてみたが、おれは眠れねえようなことはなかった、けれどもおかしいなと気がついたこともたしかで、おれが眠れねえようなことがないにしろ」

「まあきみ、治助くん」と先生が制止した、「話を簡単にしようじゃないか、え、きみがいうのはおはちさんを返せということだろう、ぼくはまたぼくで、おはちさんを」

「おはつだってばな」

「その人を伴れて来れば簡単明瞭だといってるんだ、え、だからその本人をここへ伴れて来るのがいちばん先のことじゃないか」

「先生はおれの頭をどうにかしようっていうんだな」

「きみの頭をどうするんだ」先生はついに声を尖らせた、「きみのいう本人はきみの妻だろう、自分の妻のふしだらをぼくのところへねじこむのなら、その本人である妻をだ、亭主であるきみが伴れて来るのは当然じゃないか、そうじゃないか治助くん」