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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
にもかかわらず、ここへ引越して来るとほどなく、近所のかみさんたちはかつ子が夫婦の実子でないことに気づいた。
それは四年まえで、かつ子はまだ十一歳だったが、学校へいっている時間をべつにすると、かつ子のはたらいている姿を見ないことがないし、その動作には少女らしい愛嬌や明るさがなく、あまりにてきぱきとおとなめいていて、鞭ででも躾けられたかと思われるくらいであった。
「なんだろう、あの子」その当時よく近所のかみさんたちは云ったものだ、「なにを云ってもあのきみの悪い眼でじろっと見るばかりで、返辞もろくさましやあしない、唖つんぼかね」
「いじめて育てられたせいだよ、用心ぶかくなって、誰にもなじめないし、誰も信用できなくなってるのさ」
幼いときのことは不明だが、ここへ住みついて以来、おたねとかつ子の関係は、じつの母子でないばかりでなく、親しみも愛情もない、ということが誰にでも感じられた。
おたねは亭主にだけ従順なわけではなく、身のまわりでおこるすべての事物を従順に受けいれ、聖職者が神意にさからうことを恐れるように、どんな事にも決してさからおうとはしなかった。――かつ子が自分になつかなければ、なつかないことを受けいれた。