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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
そうしてかなえがこの「街」へあらわれることになった。
おたねが亭主に向って自分の意見を述べたのはそのときだけである。そしてかつ子の生みの親に連絡がとられたのだろう、かなえ夫人が初めてたずねて来た。
彼女はおたねより七つとし下だというから、そのときは四十六か七になっていた筈だが、着物も派手だし髪も化粧も、いま美容院から出て来た、というような感じで、どうふんでも三十二、三にしかみえなかった。彼女の出現はこの「街」の人たちに一種のショックを与え、空地にもろじにも、彼女を見るためにとびだして来たかみさんや子供たちで人垣ができ、それらすべての眼が、好奇心と讃美と嫉妬を混えて彼女に集中し、彼女のあるいてゆくほうへと動くのであった。
――ほら嗅いでごらん、と翌日になって或るかみさんは云った。あの人の通ったところはいまでも香水の匂いがするよ。
かなえを迎えた綿中では、京太がまず大騒ぎを始めた。彼は例の如く独りで飲んでいたが、とびあがってかなえを招き入れ、すぐになにか馳走しろと、おたねやかつ子をせきたてた。
「まあ姉さん」とかなえはおたねに云った、「これがあの子? へえ」