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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

かつ子が伯母からそういう労りや感謝を、期待していないことも明白であった。伯母が退院してからの労働過重で、眠る時間がさらに短縮されたため、ひるま仕事をしながらもときたま居眠りするようになり、そのたび伯母に呼び起こされる結果、やがて眼をつむらずこっくりもせず居眠りができるようになった。意識的なうそ眠りではなく、呼び起こされるのを避ける自衛本能のようなものだったろう、しかも仕事をまちがえるようなことはごく稀にしかなかった。

「あんた、なにしてるの」或る夜半におたねが、声をひそめて呼びかけた、「そこでなにをしてるの」

「いま鼠がね」と京太のとぼけたような答えが聞えた、「ここに鼠がいたもんだからね、あぶないから」

「ねぼけてるのね」

「いなくなったよ」京太はぐずぐずと云った、「いま鼠がちょろちょろとここを、――そうなんだ、こっちからこっちのほうへさ」

「あんたねぼけてるのよ」

「おれが、――ねぼけてるって」

「こないだの晩もねぼけてたわ、おかしな人、子供みたい」

やがておたねは床ばらいをし、生活は平常に戻った。この期間かつ子は一と言のぐちも云わず、不平らしい顔つきもみせなかったけれど、近所の人たちは彼女がおどろくほど痩せ、顔にもやつれのみえるのに気づいた。