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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「わかるように云って下さい、おろすんですね」

「おまえは三面記事のようなことしか云えないんだな、そうだ、おろすんだよ」

おたねはそこで資金の問題をとりあげ、しょせん妹に頼むよりほかはないこと、だが自分の入院手術で借りのできたあとだから、頼みかたがむずかしいこと、断わられないためにはどんなふうに交渉すべきか、よくよく案を練る必要があること、などを熱心に話しかけた。

戸口に人のおとずれる声がしたので、夫婦は話を中断し、おたねが出ていってみた。戸口には制服の警官が立ってい、綿中かつ子の家はここかときいた。

おたねはそうだと答えた。

「中通りの伊勢正へすぐにいって下さい」と警官は云った、「かつ子くんが傷害事件をおこしたんです、ぼくが同行しますから」

「かつ子が、なにをしたというんですか」

「傷害事件です傷害」と警官は云った、「ことによると傷害致死か、殺人事件になるかもわからない、それは取調べの結果を待たなければならないが、とにかくすぐに同行して下さい」

そのとき京太が出て来た。

「ご苦労さまです」と彼は警官におじぎをし、それからおたねに云った、「いま聞いていたが、そのままでいい、おまえすぐに伴れてっていただきなさいすぐに、支度なんぞいいから」