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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
おたねのことを指さす者もいたが、彼女はなにも見ず、なにも聞かなかった。
草田病院にも警官がいて、おたねの希望を聞き、医者と相談をしたのち、面会はできないと断わられた。
「いま輸血しているところで、当人は失神状態だから」と病院付きの警官は云った、「あんたの来たことは伝言してあげるよ、こっちはそういうわけだから先に署のほうへゆきなさい」
「傷はどんなぐあいなんですか、いのちにかかわるようなことはないんでしょうか」
「いまはなにも云えないね」とその警官は答えた、「被害者は出血多量だということと、失神するまえしきりに加害者の名を呼んでいたということぐらいだな、それ以外のことは係り官の責任になると困るからね、とにかく署へゆきたまえ、加害者の親という立場を忘れるんじゃないよ」
おたねが家へ帰ったのは、夜の八時をすぎたころであった。京太は独りで飲んでいたのだろう、まっ蒼な顔になって、焼酎の匂いが鼻をついた。
「どうだった、どんなぐあいだった、かつ子はどうした」坐ったまま上躰をぐらぐらさせながら京太は問いかけた、「酒屋の小僧をやったってえのは本当か、本当に出刃庖丁でやったのか」