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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

かつ子はおちついた眼で少年を見あげ、その眼をゆっくりと伏せながら、ごめんなさいね、とよく聞きとれない声で云った。岡部少年はかろうじてその言葉を理解したらしく、眸子をきらっとさせながらかつ子の顔を凝視した。

「ぼく、わかんないんだけど」と少年はしんけんな口ぶりで囁くようにきいた、「どうしてかっちゃんあんなことしたの、ねえ、どうしてなの」

かつ子はまた少年を見あげ、その眼をまた伏せながら、死んでしまうつもりだったと答えた。

「死ぬ気だったって、かっちゃんがかい」

かつ子は頷いた。岡部少年は首をかしげた。

「わかんないじゃないか、自分で死ぬ気で、それでぼくにあんなことをするなんて、どうしてさ」

かつ子はじっと考えてから、うまく云えない、と云った。いま考えてみると自分でもよくわからない、と云った。ただ死んでしまいたいと思ったとき、あんたに忘れられてしまうのがこわかった、自分が死んだあと、すぐに忘れられてしまうだろうと思うと、こわくてこわくてたまらなくなった、本当にこわくってたまらなくなったのだ、と云った。

「ふーん」岡部少年はまた首をかしげ、地面におろしたほうの足をペダルに戻し、反対側の足を地面におろした、「ショックだなあ」