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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「米のめしというのもたいしたもんなんだぜ、ばんくん」と話は続く、「原子爆弾さえ出来なかったら戦争は日本が勝ってたんだ、わかるかね、きみ」
七代目は眼をゆっくりと細め、次にゆっくりとひらいた。それは写真機のレンズ・シャッターの開閉を、高速度撮影で映しているようなぐあいであった。
なぜ戦争に勝つか、とちょろは続けた。戦力の基礎は兵であり、兵に戦力を与える基礎は糧食である。日本人は幸運にも炊飯といって、米と水さえあればどこでもめしが炊けるが、外国人はパン食であるがゆえに、どこへゆくにもパン焼き竈や専門職人を同伴しなければならない。おかずも同様、日本人は梅干でもたくあんでも、また、必要なら塩か味噌でもめしが食える。ところがけとう兵はそうはいかない、シチューだとかコロッケだとかメンチボールだとか、オムレツだとかテキだとか、これまた専門コックがいなければならないし、それを料理するためにはシチュー鍋だとか、大小さまざまなフライパンだとか、ナイフやスプーンやホークや、なんだのかだのと荷物になってしまう。だから日本軍がちゃちゃっとはんごうすいさんをやって、胡麻塩かなんかでちゃちゃっと片づけて戦線へ出るじぶんに、やつらはようやくパン竈から焼けたパンを出し、片一方ではシチュー鍋をかきまわしているという始末さ、と春彦は云った。