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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「簡単じゃねえか、民主主義の世の中になったんだ、別れたければさっさと別れればいいさ」

「だから、それができたらなーっていうんですよ」

「できたらなーって、できねえわけでもあるんかい」

相沢は世にも訝しいことを聞くものだという表情で、まじまじと福田くんを見まもった。

「相さんは光子のことを知らないんだ」と福田くんは云った、「光子のやつはね、なにか憑きものでもしているような、へんにきみのわるいところがあるんですよ、たとえばあいつは決して大きな声をださないでしょ、喧嘩になってもにやにや笑って、しずーかな声でなにか云うんです」

「そうだな、そいつは確かだ」と相沢はブドー割を啜る、「――たまにちょっとした声が聞えるなって思うと、――まあいいや、で、静かな声がどうしたんだい」

「こっちで考えてることをずばっと見ぬいちゃうんですよ、はらの中で別れたいなとぼくが思うとしますね、すると光子のやつはにーっと唇で笑って、あんたあたしと別れたくなったのねって、しずーかな声で云いながら、眸を凝らしてぼくの顔をじーっとにらむんです、こんなふうにね」福田くんはそんなような眼つきをしてみせる、「また今日は躯がだるいから、稼ぎにゆくのはいやだなと思う、するとあいつは唇でにーっと笑って、たまには休んだほうがいいわって云って、眸を凝らしてじーっとぼく