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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「夜になるとどうした」

「いってもしょうがない」福田くんは頭を振った、「光子といっしょになってから、そろそろ五年になるんですよ、そのあいだずっと休みなしに、じーっと見てにーっと笑われて、いや、――こうやって相さんと話していることも光子はちゃんとみとおしているんですからね」

「きびのわりいこと云うなよ」相沢は福田くんからちょっと身をひき、屋台のおやじにブドー割のお代りを命じ、そうして、つとめて客観的になろうとつとめながら、そっと福田くんに質問した、「――いったいお光つぁんの生れはどこだい」

福田くんは黙って首を振り、焼酎のグラスを舐めた。それじゃあ本当のとしは、と相沢がきき、福田くんはまた黙って首を振った。

「そんなこと、誰が知るもんですか、結婚届けだって光子が独りでやって、ぼくには見せもしなかったんですからね」

相沢は仰天して眼をみはり、きみたち正式に結婚してるのかい、と大きな声できいた。福田くんは右手をあげ、それを力なく下へおろして太腿を叩いた。

「そんなことは問題じゃないんですよ、お光のやつが」

福田くんの言葉はそこでぷつっと切れた。あげている凧の糸が切れたようにとつぜん口をつぐみ、すると、あとに続く言葉は、糸の切れた凧がどこかへ飛んでゆくように、彼の口から飛び去ってしまったというふうにみえた。