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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「そうしてこうするんです」と彼は云った、「ぼくの眼をじーっとみつめたまま、唇でにーっと笑ったままですよ」

「あのときでも眼をあいたままなのかい」

「ずーっとです、ぼくにも眼をあいていろって云ってきかないんですよ、いやだなぼくは」福田くんは頭を振り、唇を閉じてぐっと横にひろげる、「まったくいやだ、はんにゃみたいな顔になるでしょ、ぞっとするな」

「はんにゃだって」

「ちょっとのまだけど、そんなようなもの凄い顔になるでしょ、はんにゃのお面そっくりだな、あれは、ぼくはいやだ、ぞーっとしちゃいますよ」

「ああ、ああそうか」相沢はようやく事理を解いたように大きく頷いた、「――はんにゃねえ、人によって違うだろうが、そいつはぞっとしそうだな」

「だからぼくは眼をつぶっていようとするんですが、光子のやつは眼をあけ、って云ってきかないんです」

「好きずきだな、ああ」相沢は首を左へひねり、右へひねりしながら、複雑な微笑をうかべた、「好きずきだ、人間てやつは千差万別だっていうからな、おれのかかあなんざ、――まあいいや、ま、とにかく、そういうことだとすると、早く別れちまうよりほかに手はねえな、さもねえときみ、本当に生き死にの問題になるかもしれねえよ、ああ」