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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
島さんがそこまで話したとき、岡田少年が口をはさんだ。
「それは落語ですよ」と岡田少年は云った、「ええ、たしか笊でもって同じようなことをする落語がありますね、ラジオで聞きましたよ」
「そうじゃない、違うんだ」島さんはにこっと笑った、「はなしかってやつは独り合点でよくまちがったことを云うがね、これは笊じゃあ絶対にだめなんだ」
岡田少年は黙り、他の四人は初めて島さんに注意を向けた。
「というのはだね」と島さんは続けた、「これが笊だとすると、さかさまにして底をはたかれる、米はきれいにはたき出されてしまうんだ、わかるね」
岡田少年のほかの四人はかすかに頷いた。
「そこへゆくとさ」島さんは云った、「そこへゆくと鉄の釜はそうはいかない、底には煤が付いているし、それ自体が重いから、さかさまにしてはたくというわけにはいかないんだ」
「そればかりじゃない」
島さんはそこで調子を高めた。
「鉄の成分にあるイオンが米粒に触れると、化学作用をおこして一種のアルカロイド物質が生じるんだな」
「アルカロイド?」岡田少年がびっくりしたような声をあげた。
「いや」島さんは口ごもった、「いや、アルデハイドだったかな、いや、やっぱりアルカロイドだったと思うがね、まあそんなことはどっちでもいい、とにかく鉄と米粒の接触によって或る化学作用がおこり、接触した米