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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

けれども、そんな食物よりも大切なのは、愛情だということ。愛情をもって当人に「自分は治る」という自信をもたせること。それが新薬より食餌より大切だと、おるいさんは信じていたのだ。

「天皇さまの赤ちゃんだって寿命がなければ亡くなるんだよ」とおるいさんは云った、「喰べ物や薬や医者さえあれば、病気が治ると思うのは迷信だからね、とうちゃんにきいてごらん、いまの天皇さまの何番めかの赤さんは、にっぽんじゅうの博士を集め、金に飽かせて療治をしたけど、やっぱり寿命には勝てないでお亡くなりになった、人間ていうのはそういうものなんだよ」

塩山一家は立ち直り、いさましく生活の平常性をとり戻した。そして年があけ、とみが中学を卒業すると、彼女もまたすぐに就職した。父の慶三が配達人をしてい、亡きはるが勤めていた郵便局である。とみは三人姉妹の中でもいちばん痩せていて小さく、就職試験のとき、髭の老局長はとみのことを、小学生ではないかと疑ったそうであった。

とみは勤め始めてみ月めに倒れた。近所の人たちはまったく知らなかった。隣りの片沼二郎のかみさんは、この「街」きっての情報通で、他のかみさんたちから放送局という渾名を付けられているくらいだったが、或る夜、塩山家がにわかに騒がしくなり、おるいさんが「とみや、とみや」