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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
このままおいてはどうなるかわからない、警官を呼びにゆこうということになった。
「そのときたんばさんが出て来たんだよ、うん」と惣さんは語る、「長屋のみなさんが遠巻にして、みんないまにも死んじまいそうな顔で、嵐のときの古雨戸みてえにがたがたふるえてたとき、たんばさんはゆっくりしたあるきぶりで野郎のほうへあるいていった、――てんでもう平気の平左なんだな、うん、おれも見ていたんだが、嘘のねえところこいつあやられるぞっと思った」
たんばさんはおちついて吉の側へゆき、なにか話しかけた。眺めていた人たちはぞっとし、ざっくり斬られる老人の姿が見えるようで、かみさんたちは眼をつむり、お互いに肩へしがみついた。――だがそんなことはおこらなかった。たんば老に話しかけられた吉は、刀をだらっとさげ、なにか二た言ばかりいったとみると、そのまま抜き身をさげて家の中へはいってしまった。それだけであった。家の中はしんとして、べつに暴れているようすもない。たんば老人は柔和な微笑をうかべながら、みんなのほうへ戻って来、もう大丈夫ですよといって、たち去った。
みんな奇蹟を見たように騒ぎだした。