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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「その声を聞いて初めて、私ははらわたが煮えくり返るようにかっとなりました」と曾根隆助は云った、「ゆうべのことをばらしてはん殴ってやろうかと思いましたが、――五人の子供がありますからねえ、はん殴るのはいいがゆうべの事を話したら、子供たちがどんなにびっくらするかと思うと、私の言葉は喉にひっかかって出て来やしませんや、なさけないはなしだが、私はなにも云わずに起きましたよ」

昨日も仕事を休み、今日も仕事を休んだ。躯じゅうの骨がばらばらになり、はらわたがみんな溶けてしまったようで、動く気にもなれなかった。

「それでまあ、思案にあまって、来たようなわけなんですが」

「おかみさんはおなかが大きいとかいってたようだね」

曾根隆助は「へえ」といって、自分が妊娠してでもいるかのように、首をちぢめ、頭を掻いた。

「金持でも貧乏人でも、学問があってもなくても」とたんば老は云った、「人間にはみんな、そんなような間違いをおこす時期があるんだな、男にも女にもさ、なま身の躯というやつはときどき、自分でもどうにもならなくなることがある、そうだろう隆さん、ま、――そういうことでひとつ考えてみよう」