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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
たんば老に助けられたことを思いだして、感謝の溜息をついている者もあろうが、たいていは忘れてしまっていて、それにもかかわらずこの長屋にたんばさんがいること、困ったときには相談に乗ってもらえる、という安心感に慰められて溜息をつくのであった。
この街をうしろから囲っている西願寺の高い崖と、崖の上に黒ぐろと茂る樹立ちとが、いまは圧迫するようにではなく、この一群の長屋ぜんたいをかき抱き、そのやすらかな眠りを見まもっているように感じられる。――黒い樹立ちから眼をあげると、空にはいちめんに星が輝いているが、そのまたたきは冷たく、非情で、愛を囁きかけるというよりも、傍観者の嘲弄のようにみえる。
「よしよし、眠れるうちに眠っておけ」とそれは云っているようであった、「明日はまた踏んだり蹴ったりされ、くやし泣きをしなくちゃあならないんだからな」
あとがき
私は去年(昭和三十六年)「青べか物語」という本をまとめた。それはある漁師町の人たちと、そこにおこった出来事についての話であるが、この「季節のない街」は、都会の「青べか物語」といってもいいほど内容には共通点が多いのである。