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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

そして島さんのあとから、互いに躯をぶっつけあいながら部屋へあがった。

片方の障子があいていて、そこに一人の大きな女のいるのが、客たちに見えた。女とは云うまでもなく島さんの妻であり、そこは勝手で、女は煉炭火鉢のぐあいをみているらしい。

「おい、お客さんだよ」島さんはまた云った、「ちょっと来てご挨拶しないか」

「めんどうくさい火だね、ちっ」奥さんは煉炭火鉢に向って舌打ちをした、「ああ癇癪がおこる、しとのうちへのこのこ、たかりに来る野郎どもがいるからこんなめんどくさいことをしなきゃならないんだ、ちっ、なんて火だろう」

「今日の文書部長の顔はおもしろかったね、松井くん」と島さんは妻の独り言をかき消そうとするように、高い声で云いだした、「――まるであれだよ、そら、タバコへ火をつけたら、それがはじけタバコでさ」

「ぱちんとはじけたので眼を剥いた、って図だったな」と松井くんが云った、「島くんはうまいことを云うよ、まったくそのとおりだったね」

「鼻の先でぱちんとさ」と島さんが云った、「ふつうのタバコだとばかり思って火をつけたら、ぱちん」

三人の客はおもしろくってがまんができない、ということを証明しようとするかのように、口をあいて笑った。