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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

病院を紹介してくれたが、どこにも空いているベッドはなかった。――大丈夫だ、テーベなら僕は自信がある、これまで二度も医者にテーベだと宣告されたが、二度とも薬さえのまずに自分で治した、心配するな、と父は力づよく云った。

母はこのときだけ、けんめいになった。空きベッドがないかと、熱心に病院を捜し続ける一方、父と共同で仕事をしていた人たちを訪ねて、入院費用をかき集めたりした。――辰弥は新制中学にかよっていたので、留守のあいだのことは知らなかったが、このあいだにも兄は、ひそかに母を呼び出して金をせびった。町の中で待伏せたり、近所の子供を使って呼び出したりしたのだろう。――共同経営者の一人が父をみまいに来、母が五人のなかまから、金を集めていった、ということがわかった。

父はその金をみせろと云い、母は出してみせたが、父の聞いた金額の三分の一にも足りなかった。父はその金を辰弥の手に握らせ、涙をぽろぽろこぼしながら、これを放すんじゃない、と云った。

「誰がなんと云っても、決してこれを渡すんじゃない、これは辰弥の金だよって」

辰弥はちょっと口をつぐみ、自分の言葉が感傷的に聞えないようにと、つとめて平板な調子を保ちながら続けた。