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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

その「河馬」部長のおかげで、辰弥の収入は平社員より多いことがあるくらいだったし、英語学校でも、午後のクラスへかよえるようにしてもらえた。――弟の一人も就職したが、一人は新制中学の三年、妹は中学の一年である。弟たちには大学までやらせるつもりだったので、辰弥はけんめいに頑張ったが、少しゆとりができたころになると、兄がやって来て、僅かな貯金まで召上げられてしまう。この「街」へ移って来てから三度、今日は四たびめというわけであった。

「僕は母にないしょで、ほかに貯金をしていたんです」辰弥は恥ずかしそうに云った、「それは、どこかに家があったら、ここを出てゆきたいと思ってるからなんですが、――学校へいっている弟や妹のことを考えると、もう少しましな環境でくらしたいんです」

できればそうするほうがいいだろうね、たんば老人は呟くように云った。

兄が来たので、すぐに辰弥は家を出た。母が持っている金くらいなら、せびり取られてもしようがない。そういうきょうだいのいることは世間に例がないわけではなし、母はしょせん兄には勝てないのだから。けれども貯金のほうは絶対に困る、これだけは自分たち一家の将来に関する金なのだ、と辰弥は云った。