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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「僕がうちを出て来たのは、僕は心に隠していることがあると、すぐ顔に出てしまうからなんです、あにきなら一と睨みで見抜いてしまうでしょう、それは自分でよくわかってるんです」

老人は辰弥を見てきいた、「貯金帳を持ってかね」

「通帳はうちにありますが、誰にもみつかる心配のないところに隠してあるんです、それに、――僕が貯金していることだって、誰にも云ってはないんですから、自分で持ってるより大丈夫なくらいです」

たんば老人は半インチほどに切った巻タバコの一つを取り、キセルの火皿に詰め、火鉢ですいつけてうまそうにふかした。

「金を都合しろって、いったいどのくらいの額なんだね」

辰弥はその金額を告げて云った、「――どうしても必要だからって、いろいろな事情を書いた手紙が、三、四日まえに届いているんです」

「今日もその話をもちだしたのかい」

「僕は挨拶しただけで、話はしずに出て来ました」

「すると、金がいらなくなって、それを知らせに来たのかもしれないね」

辰弥は冷たく微笑しながら、首を左右に振って云った、「そんなあにきならいいんですがね」

「私もいつか、そのにいさんという人を見たことがある」