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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

年があけて正月の二十日に、常磐津の師匠の総ざらいがあった。毎年の例で、三十間堀の「半勝」という貸席でやる。当日は古い弟子もみんな集まって景気をつけるのだが、そこではごくたまにしか会えない人に会い、いろいろ情報も聞けるので、古顔は一種の親睦会のように心得ていた。……ここでも経済的な意味ばかりでなく、性来の世話やき好きでお文が采配を振り、総ざらいが終るなり師匠を拉して来て、

「さあこれからお師匠さんのとこあげ祝いよ」

などと気勢をあげた。弟子たちの家からも祝いのお重や広蓋がたくさん届いている。そのうえ近所の仕出し屋から酒肴を取って、去年の病気みまいどころではない、華やかで大掛りな宴会が始まった。……こんどは男もかなりまじっているので、女たちの騒ぎには限度があったが、それだけどことなく色っぽい空気がただよい、いい年のおかみさんふうの人までが気取って笑い声をたてたりした。

「お孝さん、ちょっと」

盃がまわりだしてからまもなく、お文が来て坐って、うす笑いをしながらこっちを見た。

「どうした、あんたの旦つく、この頃はおとなしくしている」

お文はわざとそういう口をきく、奮闘したあとで酒がはいって、酔ってもいるらしい、白粉の剥げた頬が巴旦杏のように赤く光っていた。