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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

音の性質から考えればこれは雑音の不規則な集合で、音楽的の価値などは無論無いものである。しかしあるいはこれは聴感に対する音楽に対立させうべき触感あるいは筋肉感に関する楽音のようなものではあるまいか。音自身よりはむしろ音から連想する触感に一種の快を経験するのではあるまいか。それともまたもっと純粋に心理的な理由によるものだろうか。あるいはひょっとしたらわれわれの祖先の類人猿時代のある感覚の記憶でないとも言われないと思ったりした。

鋏の進んで行く先から無数の小さなばったやこおろぎが飛び出した。平和――であるかどうか、それはわからぬが、ともかくも人間の目から見ては単調らしい虫の世界へ、思いがけもない恐ろしい暴力の悪魔が侵入して、非常な目にも止まらぬ速度で、空をおおう森をなぎ立てるのである。はげしい恐慌に襲われた彼らは自分の身長の何倍、あるいは何十倍の高さを飛び上がってすぐ前面の茂みに隠れる。そうして再び鋏がそこに迫って来るまではそこで落ち付いているらしい。彼らの恐慌は単に反射的の動作に過ぎないか、あるいは非常に短い記憶しか持っていないのだろうか。……魚の視感を研究した人の話によると海中で威嚇された魚はわずかに数尺逃げのびると、もうすっかり安心して悠々と泳いでいるという事である。