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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
病室の花
発病する四五日前、三越へ行ったついでに、ベコニアの小さい鉢を一つ買って来た。書斎の机の上へ書架と並べて置いて、毎夜電燈の光でながめながら、暇があったらこれも一つ写生しておきたいと思っていたが、つい果たさずに入院するようになった。
入院の日に妻がいろいろの道具といっしょにこの鉢を持って来た、そして寝台のすぐ横にある大理石を張った薬びん台の上に載せた。灰色の壁と純白な窓掛けとで囲まれたきりで、色彩といえばただ鈍い紅殻塗りの戸棚と、寝台の頭部に光る真鍮の金具のほかには何もない、陰鬱に冷たい病室が急にあたたかくにぎやかになった。宝石で作ったような真紅のつぼみとビロードのようにつやのある緑の葉とを、臥ながら灰色の壁に投射して見ると全く目のさめるように美しかった。
いつでも思う事ではあるが、いかに精巧をきわめた造花でも、これを天然の花に比べては、到底比較にならぬほど粗雑なものである。いつかアメリカのどこかの博物館で、有名な製作者の造ったというガラスの花を見たが、それも天然の花に比べてはまるで話にならぬほどつまらない、しかもいやな感じのするものであった。このような差別の根原はいったいどこにあるだろう。