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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
ねずみと猫
一
今の住宅を建てる時に、どうか天井にねずみの入り込まないようにしてもらいたいという事を特に請負人に頼んでおいた。充分に注意しますとは言っていたが、なお工事中にも時々忘れないようにこの点を主張しておいた。大工にも直接に幾度も念をおしておいたが、自分で天井裏を点検するほどの勇気はさすがになかった。
引き移ってから数か月は無事であった。やかましく言ったかいがあったと言って喜んでいた。長い間ねずみとの共同生活に慣れたものが、ねずみの音のしない天井をいただいて寝る事になるとなんだか少し変な気もした。物足りないというのは言い過ぎであろうが、ほんとうに孤独な人間がある場合には同棲のねずみに不思議な親しみを感ずるような事も不可能ではないように思われたりした。
そのうちにどこからともなく、水のもれるようにねずみの侵入がはじまった。一度通路ができてしまえばもうそれきりである。
夜おそく仕事でもしている時に頭の上に忍びやかな足音がしたり、どこかでつつましく物をかじる音がしたりするうちはいいが、寝入りぎわをはげしい物音に驚かされたり、買ったばかりの書物の背皮を無惨に食いむしられたりするようになると少し腹が立って来た。