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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

田園雑感

一

一

現代の多くの人間に都会と田舎とどちらが好きかという問いを出すのは、蛙に水と陸とどっちがいいかと聞くようなものかもしれない。

田舎だけしか知らない人には田舎はわからないし、都会から踏み出した事のない人には都会はわからない。都鄙両方に往来する人は両方を少しずつ知っている。その結果はどちらもわからない前の二者よりも悪いかもしれない。性格が分裂して徹底した没分暁漢になれなくなるから。それはとにかく、自分は今のところでは田舎よりも都会に生活する事を希望し、それを実行している。

田舎の生活を避けたい第一の理由は、田舎の人のあまりに親切な事である。人のする事を冷淡に見放しておいてくれない事である。たとえば雨のふる日に傘をささないで往来を歩きたいと思ったとしても、なかなかそうはさせてくれない。鼻の先に止まった蚊をそっとしておきたいと思っても、それは一通りの申し訳では許されない。

親切であるために人の一挙一動は断えず注意深い目で四方から監視されている。たとえば何月何日の何時ごろに、私がすすけた麦藁帽をかぶって、某の橋を渡ったというような事実が、私の知らない人の口から次第に伝わって、おしまいにはそれが私の耳にもはいるのである。