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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
このごろは中学や高等学校の入学がだいぶ困難になって来たが、それでも一度入学さえすればとにかく無事にせり上がって行くのが通例である。これから見ると、昔の人は、不完全な寺子屋の階段を手を引いてもらってやっと上がると、それから先は自分で階段を刻んだり、蔓にすがって絶壁をよじるような思いをしなければならなかった。それで大概の人は途中で思い切ってしまっただろうが、登りつめた人の腕や足は鉄のようにきたえられたに相違ない。
三越の商品のおもなるものはなんと言っても呉服物である。こういう物に対する好尚と知識のきわめて少ない自分は、反物や帯地やえりの所を長い時間引き回されるのはかなりに迷惑である。そしてこれほどまでに呉服というものが人間に必要なものかと思って、驚き怪しんだ事も一度や二度ではない。「東京の人は衣服を食っているか」と言った田舎のある老人の奇矯な言葉が思い出される。
何番という番号のついた売り場に妻子をつれて買い物に来ている人が幾組もある。細君の品物を選り分ける顔つきや挙動や、それを黙って見ている主人の表情はさまざまである。いろいろな家庭の一面がここに反映している。