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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

わざわざ旅費を出して幾日も汽車を乗り回す必要などはないように思われる。しかしどうもこの東京の街頭に画架をすえて、往来の人を無視してゆっくり落ち着いて、目を細くしたり首をひねったりする勇気は――やってみたら存外あるかもしれないが、考えてみただけではどうもなさそうに思われる。せめて郊外へでも行けばそういう点でいくらかぐあいのいい場所があるだろうと思ったが、しかし一方でまたあまり長く電車や汽車に乗り、また重いものをさげて長途を歩くのは今の病気にさわるという懸念があった。

ことしの秋になって病気のぐあいがだいぶよくなったし、医者も許しまたすすめてくれたので、どこかへためしに行ってみようと思うと、あいにくなもので時候はずれの霖雨がしばらくつづいて、なかなか適当な日は来なかった。やっと天気がよくなって小春の日光の誘惑を感ずるころには、子供が病気になっていてどうもそういう心持ちになれなかった。

十月十五日。朝あまり天気が朗らかであったので急に思い立って出かける事にした。このあいだM君と会った時、いつかいっしょに大宮へでも行ってみようかという話をした事を思い出して、とにかく大宮まで行ってみる事にした。