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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
「いいねえ」「いい色だねえ」などと言っているのがやはり子供らしい世辞のように聞こえた。遠慮深い小さな声で言っているのであったがさすがにきのうの大宮の車夫とはちがって、絵の中の物体を指摘したりしないで「色」を言ったりするところがそれだけ新しい時代の子供であるのかもしれない。
ここはいいかげんに切り上げて丘の上の畑の中を歩いた。黍を主題にしたのが一枚かきたかったがどうもぐあいのいい背景が見つからなかった。同じ畑の中をなんべんも往復しているのを少し離れた畑で働いていた農夫が怪しんでいるようで少し気が引けた。自分が農夫になって見た時にこの絵の具箱をぶら下げて歩いている自分がいかにも東京ののらくら者に見えるので心細かった。とうとう鉄道線路のそばの崖の上に腰かけて、一枚ざっとどうにか書き上げてしまった。
十月十八日、火曜。午後に子供を一人つれて、日暮里の新開町を通って町はずれに出た。戦争のためにできたらしい小工場が至るところに小規模な生産をやっている。ともかくも自分の子供の時にはみんな貴重な舶来物であった品物が、ちゃんとここらのこんな見すぼらしい工場でできてきれいなラベルなどをはられて市場に出てくるのであろう。