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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

商人の一人はポートセイドまで乗り込んで甲板で店をひろげた。

十時出帆徐行。運河の土手の上をまっ黒な子供の群れが船と並行して走りながら口々にわめいていた。船ではだれも相手にしないので一人減り二人減り、最後に残った二三人が滑稽な身ぶりをして見せた。そして暑い土手をとぼとぼ引き返して行った。両岸ことにアラビアの側は見渡す限り砂漠でところどころのくぼみにはかわき上がった塩のようなまっ白なものが見える。アフリカのほうにははるかに兀とした岩山の懸崖が見え、そのはずれのほうはミラージュで浮き上がって見えた。苦海では思いのほか涼しい風が吹いたが、再び運河に入るとまた暑くなった。ところどころにあるステーションだけにはさすがに樹木の緑があって木陰には牛や驢馬があまり熱帯らしくない顔をして遊んでいた。岸べに天幕があって駱駝が二三匹いたり、アフリカ式の村落に野羊がはねていたりした。みぎわには蘆のようなものがはえている所もあった。砂漠にもみぎわにも風の作った砂波がみごとにできていたり、草のはえた所だけが風蝕を受けないために土饅頭になっているのもあった。

夜ひとりボートデッキへ上がって見たら上弦の月が赤く天心にかかって砂漠のながめは夢のようであった。