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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

である。

窓の下框には扁柏の高いこずえが見えて、その上には今目ざめたような裏山がのぞいている。

床はそのままに、そっと抜け出して運動場へおりると、広い芝生は露を浴びて、素足につっかけた兵隊靴をぬらす。

ばったが驚いて飛び出す羽音も快い。

芝原のまわりは小松原が取り巻いて、すみのところどころには月見草が咲き乱れていた。

その中を踏み散らして広い運動場を一回りするうちに、赤い日影が時計台を染めて賄所の井戸が威勢よくきしり始めるのであった。

そのころある夜自分は妙な夢を見た。

ちょうど運動場のようで、もっと広い草原の中をおぼろな月光を浴びて現ともなくさまようていた。

淡い夜霧が草の葉末におりて四方は薄絹に包まれたようである。

どこともなく草花のような香がするが何のにおいとも知れぬ。

足もとから四方にかけて一面に月見草の花が咲き連なっている。

自分と並んで一人若い女が歩いているが、世の人と思われぬ青白い顔の輪郭に月の光を受けて黙って歩いている。

薄鼠色の着物の長くひいた裾にはやはり月見草が美しく染め出されていた。

どうしてこんな夢を見たものかそれは今考えてもわからぬ。

夢がさめてみるとガラス窓がほのかに白んで、虫の音が聞こえていた。