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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

わたくしは唯、この眼で見ただけのことを申上げるだけで、ことばの裏に何の判断のある筈もございません。やっぱりそんなはなしをしながら最初におもいだすのは岸本柳亭のことでございます。わすれもいたしませぬ。死刑執行の二日前、監房をおとずれたわたくしに向い、柳亭はだしぬけに「いよいよ駄目ですね?」と念を押すように申しました。覚悟はきめていながらもさすがにあきらめきれぬ気もちがあったものと思われます。一月十八日で、雨が降ったりやんだりする寒い日であったとおぼえています。そのとき、わたくしは何と答えたか自分のことばを今はっきりおもいだせませぬが、だまってあの男の顔を見ているうちにひとりでに涙ぐんでまいりました。あの男のさびしい声だけがふかく耳に残ってその晩はどうしても眠ることができなかったのです。柳亭はひくい声で、――そう言えばあの男の声はどんなときにもかすれるように静かで心のみだれというものを少しも残していなかったように思います。そのとき、あの男は、自分が刑の執行をうけるのは事件の性質上やむを得ないと思うが、唯、気の毒なのはわれわれと共に死んでゆく人たちの身の上だ。