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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

そこにあのひとの迷いがあったのでございましょう。あのひとがほんとうに間者であったといたしましたら、死に際に臨んであんなに迷いのふかい気もちに陥ちこまれるわけはございません。つまり、あのひとが間者であったということも一つの憶測にすぎず、あのひとが間者でなかったということも一つの解釈にすぎず、そのどっちかがかたちの上ではっきりしていたらたぶんあんなとりみだしかたはなさるまいと存じます。間者であることの論拠はあのひとが岸本柳亭から大事をうちあけられたおなじ日に、政府の大官と関りあいのふかい政治行者の森野半二郎をおたずねなされたというだけのことではございませぬか。柳亭の弁護をされました河上弁護士も当時のことをおかきになりました手記の中で「金近は陽に岸本に与し陰に之を半二郎に売りしならん」と書いていられたように思いますが、詮ずるところはこれも一理、あれも一理と申すだけのことで、あのひとの性情から考えますと、これもわたくしだけの浅墓な解釈でございますが、あのひとが森野行者を通じてこの密謀を売りわたすなぞということは、夢にも考えられないことでございます。もしあのひとが最初から岸本の密謀に加わっておいでなされたとしたら、どうして森野行者なぞにうちあけたりなさる筈がございましょう。