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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

「恐いのう、あの下に居たりゃ生命は無いぞ」、頓興な声と共に金作は、腰の煙草入れを抜き出して先ず一服と尻を落ち付ける。

雪渓に下りて小窓へ登るより外に途はなくなって仕舞った。此処から眺めると小窓裏の雪渓は、上端を小窓の底部に開いて、表側よりずっと急ではあるが登りは楽そうである。然しあの崩石のとばしりが今から心配になる。「ナニ、瀑が幾つもあるから案じはねえ」。長次郎と金作が口を揃えて事もなげに打ち消してしまう。長い偃松の中を潜りながら、枝から枝へ手足を托して体を運ぶのがなかなか厄介だ。硫黄の粉末のような黄色い花粉が烟のように舞いって、息が塞る程苦しい。一度落ち込むと、ふっくり岩間を掩うた青苔の陥し穽がするすると腰のあたりまで引き入れてしまう。頭の上では偃松の枝が手早く籠目を組んで、素知らぬ顔をしている。一時間は過ぎ去ってしまったが、私達は未だ偃松の痛い包囲から脱け去ることが出来なかった。

これから何でも一の窪を下りて漸く偃松の重囲を脱した後、綱を頼りに崩れ易い側崖の鼻を廻って、同じ崖続きの中腹に狭いが好い工合に人ひとり通る位は余裕のある岩襞の上に出た。