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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

立山を越ゆ

立山を越ゆ

七月三十一日。午前六時三十五分、劒沢の岩屋出発。劒沢を泝り、八時十三分、長次郎谷の出合。大なる羚羊を見る。十時、別山裏の平地に達し、小憩して昼食。十時三十五分、出発。十一時、別山乗越着。長次郎等を室堂に遣り、米味噌其他の必需品を購わしめ、吾等は悠々山巓を南に伝いて、午後二時、雄山。三時二十分、浄土山最高点、此処にて長次郎等を待つこと二時間の後、五時三十分、浄土山の西側草原の窪地に野営。

此暁若し黒部別山の一角に立って、ふと劒沢の谿谷を瞰下ろした人があったならば、すぐ脚元のほの白い河原を罩めた薄紫の煙の下に、赤い炎を揚げて勢よく燃えている焚火の周りに集った五、六の人影を見たであろう。そしてこの恐らく砂原に蠢めいている蟻のような私達の姿は、よしやそれが幾日かを重ねた山の上の旅に人懐しい折であったにしても、唯好奇の心に一瞥の満足を与えたのみで、長く興味を惹くには余りによく晴れた朝であったであろう。視界を限られた峡谷の天から星の一つ一つが先ず其姿を隠して、白味を帯びた瑠璃色の空に薔薇色の光がにじむように拡がるのを仙人山の尾根越しに眺めた時には、昨日劒岳の頂上に登って二年越しの宿望を充たした平静な心にも、黒部別山の巓を仰いで華やかな期待にじっとしてはいられない程であった。