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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

目懸けて頽れ落ちている。其上の高い岩の狭間から烟のような霧が下り始めたかと思うと、見る間に四辺はぴったりと鎖されてしまった。

一しきり其処らを縺れ廻っていた霧がうっすりと剥がれると、荒廃した急な山稜が石滝の向う側に顕れる。滝の縁に沿うて静に登っていた長次郎は、之を見ると直に其斜面に移った、倔強な彼にもこの斜面を攀じ登るのは容易ではないらしかった。三窓で僅か許りの記載をしていた為に一行に遅れていた私は、石滝を横切ると猶予なく其斜面に噛り付いて、遮二無二匐い登ろうとしたが、頭上三尺の高さに垂れ下った偃松の枝を捉えるまでに幾度かずり落ちた。一度は漸く捉えた枝が体の重みにポッキと折れて、仰向けさまに倒れようとしたのを顔を地面に埋めるようにして危く免かれることが出来た。当薬竜胆、岩栂、栂桜などが目先に寂しい花を綴って霧に揺れている。

矮い偃松を蹈み乱って、ぼろぼろに岩の崩れた山稜を登って行く、脚の下は霧の罩めた深いガレのようだ。斯ういう処では迷う気遣いもないが、どうかすると右にも左にも、岩間を古苔の綿でふっくりと埋めた足触りの好い平らな尾根が顕れて、一行を誘き寄せようとする、そんな時に限ってうっかり其方へ足を向けた私達は、屹度長次郎に呼び戻されて、ひどい崖の横を匍わされなどした。