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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页
三ノ瀬より栃本へ
三ノ瀬より栃本へ
大正元年八月二十六日より二十八日まで。
飯田町――塩山――柳沢峠――三ノ瀬――唐松尾――雁峠――古礼山――水晶山――雁坂峠――栃本。
ふと目が覚めた。山に憧憬れながらもうつらうつらとして、遠く身辺を離れ得なかった魂は夜の寂寥を破って山々に反響する鋭い汽笛の音に、吃驚してわれに還ったものらしい。午後九時飯田町発名古屋行の列車に乗って塩山に向う途中である。外を覗くと行手の高い所に見覚えのある猿橋発電所の電灯が赤く光っている。心配であった空模様もどうやら持ち直したらしく、暗い層積雲の大きな塊は、例えば伊太利の空にあこがるる北欧の詩人の如くに、南へ南へと動いて、見る見る大空の何処へか吸い込まれてしまった。山の端近く残っていた十三夜の月は、薄絹に包まれた蘭灯のような光を投げて、平凡な桂川の谷を一幅の画に仕上げた。初秋風が晴れた空からそよそよと吹き下して来るらしい。連日の旱に弱り切った草木が懶い眠から醒めて、来る可き凋落の悲しみの先駆である此風の前に、快げにそよいで居るのが見える。
丁度此歳の春三月、南日、中村の二君は丹波山村に行かれ、其処から大洞山(飛竜山)に登られて、此方面に於ける暗黒なる奥秩父の山脈に一道の光明を与えられた。