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こうじょうしんぶん

工場新聞

徳永 直

「新潮」1932(昭和7)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,771 字 · 16 页

青空文庫

一

一

「タッちゃん、なに読んでるの?」

これも読書組の、トシが傍へよってきて、のぞきこんだ。馴れた臭気だけれど、ムッとめまいするような煙草の匂がした。

「いやよ」

タツは、慌てて読んでたものをかくした。うすッぺらな、ガリ版ずりの「赤煉瓦」というのだった。

「意地わる!」

作業帽の下から、赤ちゃけた頭髪をハミ出さしたトシは、タツをぶつ真似して、ゴロリと芝生の上へ腹這いになった。

九時半の休憩時間は十五分しかなかった。だから読書組の、古雑誌や小説本を読む連中は、ベルが鳴ると、手も顔も洗わないで、いくらか静かな、この工場の中庭へかけ出してきた。

立ちッ通しの、徳利のような大きな足をせいぜいのばして、十五分を出来るだけ有効につかうのだ。

タツは、両手でかくすようにして、その「赤煉瓦」を読んだ。文学的な、タツにはわからない小むずかしいことが書いてあったり、プロレタリアと資本家は敵同士で、おれたちは、血をもってやつらと闘わねばならぬとか、タツは一方で恐怖めいたものを感じながら、それでも自分達の安い賃銀でつくっている煙草が、日本の軍事費の大部分になっていることを説明した記事なぞは、ひどく彼女をひきつけたりした。