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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

どの位躍るような気もちで私はその記録を手にとった事でしょう。私は恋人の手紙でもよむような気持で、始めから終りまで、貪るように読みました。紙の裏を貫くような鋭い眼を以て、字という字は一つと雖も見逃さぬように一気に読み通してしまったのです。

ところがどうでしょう。記録をすっかり読み終った私は、全然失望するより外はありませんでした。新聞紙の報告は、残念ながら殆ど誤って居なかったのです。被告人大寺一郎は、検事廷に於ても、亦予審廷に於ても、悉く其の罪を認めて居ます。而もそれは二人の男女に対する立派な殺人罪なのでありました。

私が最後の望みをつないで居る数ヶ所の疑問は、被告人の極めて合理的な自白によって立派に説明がつくのです。被告人の自白は、出鱈目というには余りに熱意がありすぎます。余りに真摯です。而も検事や予審判事の前で、此の被告人が出鱈目を云う必要が何処にありましょう。

此処に其の時の記録の写しがあります。今予審廷に於ける訊問及び答弁をそのまま読んで御らんに入れましょう。(原文には仮名に濁りが附してありません。又句読点もないのですが、わかり易い為普通の文にして読みます)