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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
九
俺を愛してなんかはいなかったのだ。悪魔よ。悪魔よ、来れわが魂を俺の胸からむしりとってくれ。そして永遠に汝のもとにおけ。
道子……道子までが死ぬ時俺の名を云いやがったんだ。あの憎むべき夫婦……呪われてあれ。
法律よ。呪われてあれ。
女よ。呪われてあれ。
ああしかし、最後に疑う……もしや……
道子は、はたして俺を……
九
奇怪なる手記はここで終っております。悪魔に呼びかけた彼もやはり人間であったと見え、この後は書きつづけられなかったかして、手記はここでポツンと切れてしまい、紙には落涙のあとが点々として見えています。
私はこの手記については何も申しますまい。ただあなた方の推測と想像とにお任せします。われわれは彼のこの切々の言を信ずべきでしょうか。将又、荒唐無稽の世まい言として葬り去るべきものでしょうか。私は敢て多くを語りますまい。
ただ一つ、あの哀れな青年が、恐らくは死の間ぎわまで気にしていたであろう点、道子がほんとうに淋しかったのか、大寺一郎を真に愛していたのか、それとも夫とは仲がよくて全く彼を飜弄したに過ぎなかったかは、はっきりと知って見たいような気がするのです。