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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
八
もうどうにでもなれ、と思っていきなりそのナイフを抜きとり、清三を其の場に投げ仆しておいて(此の途端に彼は上半身を机に打つけ頭に傷をしたのである)自分は即座にそのナイフで死のうと、決心したのだ。
しかし其の刹那に、下から男女が上って来たので俺は一寸躊躇したのである。つづいて清三が俺の名を云った事も、道子が俺の名を云った事も其の場に居てはっきりと聞いた。
之をきいた時、俺はこのまま黙っては死ねぬと思った。そうだ、この俺をさんざん飜弄しつくしたこの女と又、浅ましき姦通をしたと軽率にもきめてかかったその夫に復讐しないではおかぬ。どうせ死ぬんだ。とこう思った俺はおとなしくその場で捕えられたのである。
これが其の夜の真の実況であった。
八
俺は復讐してやろうと、決心した。そうだ、道子は俺を弄りものにしたのだ。夫が自分を愛していない、いじめて困る、とは何だ。俺に見せたあの痣! おお悪魔! 俺は其の時ほんとうに同情していたのだ。而も凡ては偽瞞だったのだ。道子は俺をはじめ多くの青年をからかっていたのだ。なる程、お前は夫に対しては貞操を守った。然し幾人の多くの男子の心をお前は飜弄したか。