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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

五

わざとそれを挙げませんけれど、探偵小説作家たるあなた方が、必ず想到するべき一つのテオリーが未だある筈です、と私は敢て思うのであります。

然し、それならば何故大寺が犯罪を認めているのでしょう。更に、此処に最も望みが少いのは死者二人の瀕死の刹那の言葉であります。

清三も道子も、死の直前に明かに「大寺」及び「一郎」という名を言って居るのです。若し之が確められたならば、殆ど問題はないのです。ただたった一つの場合を除けば、それは即ち、道子が死に瀕して、わが愛人の名を呼んだのではないかという考えであります。ともかく、最大の不利益は被告人の自白です。何よりも一番有力な証拠は、被告人の自白であります。此の事件に於て大寺一郎は悉く犯罪を認めて居るのです。

結局私は、道子に対する殺人罪は兎も角も、清三に対しては、或いは傷害致死の事件になるのではなかろうか、と迷いに迷って考えたのです。迷いに迷った私は、予審の終結決定を、今か今かと待ち焦れて居たのでした。

五

待ちに待った決定は遂に与えられました。事件はさきに申した通り、愈々公判に附せられる事になったのです。私は正式に此の事件の被告人大寺一郎の弁護人として、急いで記録を取り寄せて見ました。