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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
「一寸、見て頂戴」
と俺が視線を外にそらす間も与えず、いきなり肉づきのいい左手の袂をぐっとまくりあげながら、其の腕を俺の目の前に差出したのである。むっとする香りと共に、俺はぐらぐらするような気がしたが、その時、むっくりもり上って居る彼女の二の腕の肉に、烙きつけられたような、蛇のような青痣を見てしまった。
二人は一寸の間まったく黙った。
「清三さんは、あなたをそんなに苦しめるんですか」
俺は思わずこう云った途端、右の手を出して道子の豊かな腕にふれてしまった。彼女は引こうともしないで、黙ってうなずいて見せたのである。
おお悪魔よ。神の如き此の女性を、汝は何が故にかくも虐待するのか、汝は此の女性の夫たる――否、否、僕にすらなる資格はないのだ。
俺は清三の存在を呪った。彼を罵った。彼女の結婚を呪った。
さすがにそれとは云わなかったけれ共、俺は興奮した余り、可なり遠慮なく清三の事を云ってのけたのだった。
彼女はただ黙ってうなずいて居たが、終りに、
「だけど、こんな事あなたっきりに云うんだから黙っててね」
と一言いった切りである。
道子よ。汝こそ呪わるべき哉、俺は汝が、こんな技巧をいろいろな男に示して居たかと思えば、全身の血が逆流するような気がする。