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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

そういう事が許されていてよいものであろうか。

よし、俺は自分が地獄に行く時、必ずおまえを道連れにしてやる。

死刑になる俺の不名誉は勿論ながら、姦通した上に痴情の果、殺されたと云われるお前も名誉ではあるまい。又死ぬまで俺を呪ったあの清三も妻をとられた上、自分が殺されたとあっては、汝も名誉ではあるまい。此の一介の田舎出の青年は、社会的に有名な汝等の名誉と名誉の相殺をする事を敢ていとうものではないのだ。

俺は捕まってから一日中、何も云わずに俺が自白すべき筋道を考えた。考えに考えた。そうして小田夫妻に復讐すると同時に、法律に対しても復讐してやろうと決心した。

その結果は、どうだ。見よ、あのむずかしい顔をした裁判官は、俺を死刑に処する理由として、俺が道子と永い間姦通していたと、公文書を以て天下に広告してくれたではないか。道子は俺のものだった。又永久に俺のものであることを判決文の中に謳ってくれている。

俺が警察で考えた一つの小説――悪魔の魂より創作した小説を、法律は正に事実であると裏書してくれたのである。

俺はあの美しき道子の肉体を得たのだ。

其の代償としては、どうせ不用になっている俺の生命を取ろうというのだ。