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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页

青空文庫

塾の明治娘

堪らなくなって、姉や下男たちは、戸外へ走って行った。親類の者を呼び集めに行ったのだった。後から後からいろんな顔が加わった。けれど、銀左衛門は、それらの人々のとりなしにも「うん」とはいわない。そのうちに、とうとう夜が明けてきた。やっと銀左衛門も折れた様子で「では……」と云ったのが朝陽を見た頃だった。「ゆるすわけにゆかないが、親類の衆にあずけておく」それが、銀左衛門のさいごの云い渡しだったという。

その場から丈之助は叔母か誰かに手をひかれて親類の家へ連れて行かれた。よくある親類預けになったわけである。親類も貧乏だったろうし、しつけとか、こらしめの意味もふくめて、それからすぐ丈之助は、小田原から数里奥の道了さまと俗にいう山の寺房へ寺小姓にやられてしまった。――ぼくの父は以後十四歳まで、道了権現の山の中におかれ、おかげで修学もできたが酷使されていたのだそうだ。こういう祖父と父とからつながっているぼくであった。と、時には自省してみる必要がぼくにはある。忽然と社会の木の股から生れて来た者みたいに、ぼくは自分を取澄まして安易にうぬ惚れてもいられない。

塾の明治娘