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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页

青空文庫

明治三十一年

明治三十二年

明治三十四年

異母兄政広は、小田原の藩医綾部家に養子入籍されていたもの。医学希望で実父を頼り来るも、父に諭されて帰る。

明治三十一年(1898) 六歳

横浜市千歳町山内尋常高等小学校に入学。四季、植木商会の花園を抜けて約半里を通学する。園丁の子、市チャンと仲よしになる。市チャンと共に、南京墓や相沢の貧民窟「いろは長屋」までをよく飛びあるく。後年の作「かんかん虫は唄う」のうちにある描写はその頃の印象に依る。

明治三十二年(1899) 七歳

小学校終課後も、教室に残って、特別に英語の個人教授をうく。週二回、帰宅後も宵よりまた家の近所の岡鴻東氏の「岡塾」に通い、漢学を習ぶ。中学漢林、詩経、十八史略などこの年より九歳までつづく。

家庭、山手通り遊行坂上に移る。日曜学校にも通う。附近外人住宅、宣教師、洋妾の家など多く、自然外人の友達多し。名騎手神崎の厩舎も近く、当年の東都の名士名妓などつねに出入し、騎手神崎の出入を仰いで、幼な心に将来は騎手にならむかなどと思った。

明治三十四年(1901) 九歳

家、南太田清水町一番地へ移転。

家運続いて隆昌を極めるも、父の大酒と豪遊の風もやまず、子等は父の姿を忘れ、父の姿を見る日は、その愛妓茶屋の女将までを家庭に見た。