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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页

青空文庫

明治四十二年

明治四十三年

いよいよ一家離散。時々海岸へ出ては横浜の方を眺める。たまらなく帰りたい。横須賀新聞の俳壇の秋季俳句大会に入選表彰される。

十一月、退店。横浜の家に帰る。どんな苦労してもやっぱり家がいいと思う。長屋の留さんという日雇い労働者に働き口をたのむ。留さんにつれられ、保土ヶ谷の科学工場の建築場へ土工の手伝いに通い出す。初めてゆく日、留さんが草鞋の穿き方を教えてくれた。

明治四十二年(1909) 十七歳

窮乏のどん底つづく。一家食せざる日あり。三月、横浜ドック会社の船具工に年齢を偽って入社、日給四十二銭を受く。五月、三女浜子死亡。

病床の父、臥床中、周易研究に凝り初め、やがて売卜の看板を出すも殆ど客稀れ。又、父の旧知医家某氏の援助にて、些か家計の策を立て直し、この年、鉄ノ橋際吉田町二丁目に移転。病状、漸く小康、医家の出張診療所と父の易断所とを兼ね、いささか朝夕の家計も楽になる。初めて電灯のある住宅に住む。

明治四十三年(1910) 十八歳

頻りに文学書を漁り読む。古典に離れ、この頃、翻訳物に熱中する。横浜短詩社、句会などにも折々出席、磯萍水、安斎一安、高沢初風氏らの横浜文壇なるもの大いに盛り、与謝野寛、晶子氏などの歌壇も交じえて浜港の青春子女に文化志向の夢高まる。